今回で24回目を迎えた桑沢賞の表彰式&パーティーが、2016年5月21日(土)の6時より、東京・原宿クエストホールにおいてにぎやかに開催されました。約400名の参加者をかぞえ、今回もタレント&工業デザイナーの稲川淳二さんの司会によりにぎやかに表彰式が行われました。
八十島博明同窓会会長が開会の挨拶で、「この桑沢賞は創立者の桑澤洋子先生の業績を記念して同窓会が制定し、今回で24回を迎えました。今年もすばらしい受賞者が揃いました。ここクエストホールでの開催は16回目を迎え、照明・音響そして一流の司会者、さらには同窓会メンバーおよび学生さんのボランティアにより運営されています。そんな桑沢賞にこれからもご協力お願いいたします」と語りました。
桑沢賞2016 特製賞状
- Design:
- 高田唯氏(2015年桑沢賞受賞)
- Comment:
- 桑沢賞という厚みと重みがある賞を分厚い本に置き換え、更に、受賞された方々の輝かしさを眩しい蛍光イエローの色で表現しました。
桑沢賞2016 特製Tシャツ
- Design:
- 安齋肇氏(2014年桑沢スピリット賞受賞)
- Comment:
- ティシャツが大好きで、みうらじゅん君からティシャツ屋と呼ばれるワタクシが心を込めてデザインしたKD-STARです。
その昔、ノミネートされながらも落選し逃した桑沢賞。欲しい欲しい という願望からか星の絵になりました。念願のスピリット賞を頂いた2014年、浮かれていたワタクシに真面目にデザインしなさいとスピーチされた榮久庵憲司先生のお言葉は心にタトゥーしております。先生も星となられました。ボディカラーは、事務局の方の名前からイグサ色に決めました。
桑沢賞:審査総評
Shimokawa Kazuya
下川 一哉氏
デザインプロデュ-サー
桑沢賞の選考について
Kudo Tsuyokatsu
工藤 強勝氏
グラフィックデザイナー
祈りの花瓶/8.9 長崎毎熊 那々恵
- Concept:
- 「長崎の8月9日を知って欲しい。」という想いから、当時人々と共に被爆を経験した瓶を3Dプリンターを使い複製し、祈るための花瓶を制作しました。長崎では被爆を経験した人々や被爆遺構が日常の中にあり、日頃から戦争や平和について考えることが身近でした。この花瓶を通して皆さんにも長崎の人々の想いを知り、考えてもらえるきっかけになって欲しいです。
- Review:
- もの言わぬモノにも、物語があります。この花瓶について人と人とが話すとき、悲しみと共に希望が伝えられることも想像できました。実物は、被爆した瓶と同様に美しく儚いのに、制作意図には強烈な「伝える力」を感じます。評者 : 森井ユカ(同窓会理事・立体造形家/雑貨コレクター)
Neutral平塚 祐里絵
- Concept:
- コンセプトはタイトルである「Neutral=中立的、中間的」です。今年のゼミのテーマの「中」という字から、「中」を色で表現したら「灰色」になるのではないかと思い、「灰色」を紹介する本を作りました。「白」と「黒」と一緒にあることで際立つ中間のグレーゾーンを、3冊構成とケースの装丁で表現しています。
- Review:
- 全くデザイン的な小細工をするところがなく、他の人たちの作品と比較しても、骨太の堂々たる仕事です。同時に、細部にも神経が行き届いていてエディトリアル・デザインの基本が分かっている印象を持ち、将来性を感じました。評者 : 中西元男 (同窓会特別委員・デザインコンサルタント)
TAIL NAIL西須 汐美
- Concept:
- 動物のしっぽをモチーフにしたネイルボトルのコンセプトデザイン。
集めて並べたくなるような、かわいらしい形を目指し制作した。
動物はそれぞれ、ブタ・ネコ・カメレオン・リス・クジラをモチーフにしている。動物にとって感情表現の手段の1つでもあるしっぽと、
女性にとって今の気分を表現する事の多い、ネイルとの共通性に着目した。ネイルボトルの蓋は、今までシンプルで同じような形のものが主流だったが、新しい提案として、そこに形を持たせた。
- Review:
- 動物は時にしっぽで感情を表し、女性は時に指先のカラーやデコでその気分を表します。ポスターのコピー『しっぽでつかむ』とは、まさにこの女ごころを捉えたものでしょう。ネイルボトルという小さな日常の世界を女性ならではの視点で多彩に表現した点を評価しました。評者 : 赤羽なつみ(同窓会理事・グラフィックデザイナー)
26_26アメット・カイル・チェット
- Concept:
- 繰り返すということはデザインにおいてとても大切な事だと思う。
モノの数を増やすとデザインの雰囲気が変わってくる。
最初に作った文字(必ずしもAではない)の作り方を基本ベースにして、その文字のもつデザインで26文字作り、各々の書体を完成させた。
26文字で26書体。全部で676文字を制作した。
違う視点でもこの「数」が繰り返すことの意味を感じられるかと思う。シンプルなコンセプトでも面白い結果が出せるという事も伝えたかった。
- Review:
- この方法論は桑沢の伝統。タイプフェイスをきっかけにした「研究・実験」の過程に厚みがあり、やり抜いた感があります。現段階の先に「可視性への考察」、「文字組へのアプローチ」と展開していける可能性を感じます。評者 : 八十島博明 (同窓会理事・グラフィックデザイナー)
asatsuyu三橋 竜希
- Concept:
- 葉の超撥水性を応用した化粧水ボトル。
葉をイメージしたデザインになっており、
本体部分は自然感を出すために有機的なふっくらとした形にした。使い方は本体の手前に手をかざすと内蔵されているセンサーが感知し、一定量の化粧水がポンプから組み上げられプレートに開いた穴から出るようになっている。プレートには超撥水加工が施されているので流れ出た化粧水が水滴となりぷるぷると転がって手のひらに落ちる。
- Review:
- 単なる「化粧水ボトルの造形」のみに留意したのではなく、超撥水プレートの上で転がる水滴の動きを通して「化粧水」そのものを魅力的に演出しています。「手をかざす」という従来の化粧水ボトルにはない発想と合わせ、まさに固定概念を打破していると思います。評者 : 八十島博明 (同窓会理事・グラフィックデザイナー)
ネオシュールレアリスム弓桁 一倖
- Concept:
- シュールレアリスムをテーマに、特にルネマグリットの作品に影響を受け、ファッションとしての新たなる表現方法を探った。「言葉とイメージ」の関係を探り続けたマグリットの精神を10体の服に落とし込んだ。特にフォルムにこだわり、違和感を覚える形をデザインした。マグリットの作品にみられる、日常にあるものが、配置やバランスを変えることにより非日常になる考えを応用したデザインをした。
- Review:
- ためらいの無さを感じる若々しく突き抜けた力強いデザインは、見ていてとても爽快感がありました。一見破天荒で大胆なアイデアが目に入っても、色やフォルムのバランスが考えられていてその今日的な感覚は、ディテールや小物のコーディネートのセンスにも現れています。時にユーモラスな味もあり大胆素敵なパワーは圧倒的でした。評者 : 横森美奈子 (同窓会理事・ファッションデザイナー)
変身山田 遥乃
- Concept:
- モテるとは、想像の中で自身という概念を超え、他者の視点を持つ事から始まる。そのために等身大の私が様々なものに変身する様をプリントと立体作品で表現した。傘、ミシン、木馬、ギター、水、そして青い鳥。これらの要素が集まった衣服を身にまとい、始まりの私よりも豊かな考えを持つ事が出来た喜びを身体パフォーマンスとして表現した。モテるデザインとは、想像の中で変身する事で様々な生き方の可能性を広げ、豊かに生きる事をいうのである。
- Review:
- 「変身=自分という概念の拡張」という表現を、扱いが難しいメッシュ素材を(そう見えないように軽々と)詩的で美しくまとめていたことが評価の理由です。感性に将来性を感じました。また、あの素材で立体的に鳥の細部まで作り込むことは、それなりの技術も必要です。評者 : 三上 司 (同窓会委員・ファッションデザイナー)
11時2分、祈り石川 夏李
- Concept:
- 戦後70年。
私の祖母は原爆が落とされた年の長崎で誕生しました。そして二十歳になった私は、今まで知ることのなかった祖母の過去をたどり長崎で10日を過ごし、長崎で呉服屋「石川京染店」を営んだ曽祖母が残した美しい絹の反物で感謝と祈りを込めて繕いました。今、日本では憲法9条の改正が進められており一人一人が平和と真剣に向き合うときなのではないのでしょうか。この作品を通して一人でも多くの人が平和と向き合っていただけると幸いです。核兵器・戦争のない世界へ。
- Review:
- 2色で構成されていて一見、今日的でソフトなモダニズムを感じましたが、実は着物の生地を使いディテールにもそれらしいアクセントがありました。
“和”のテイストもブームではあるけれど、往々にして強調されすぎて過剰になりがちなのを、この作品群はとてもさりげなくエレガントに表現していたと思います。評者 : 横森美奈子(同窓会理事・ファッションデザイナー)
ウォーカーエヴァンズのアメリカを読む桑原 仁美
- Concept:
- エヴァンズの写真は一見ジャーナリスト的に見えますが、その写真は実に表情豊かであることに気づきます。その写真が持つ表情を損なわないことと、写真論として文章が読みやすいこととの二点に留意しました。文章のレイアウトは2通りに絞り、写真のレイアウトはかぶらないようにしています。また、ゆっくり読んでほしいという意図から判型は横長に。ハードカバーだと重厚になりすぎると感じたので、「軽すぎず重すぎず」という装丁を心がけました。
- Review:
- なかなかしっかりした構成力とデザイン指針をお持ちの方とお見受けしました。簡素な造本、丁寧で明快なタイポグラフィ、
気の利いたキャプションと写真の扱いなど、デザイン力と同時に編集の力を感じさせる作品で、大変好感を持ちました。評者 : 中西元男 (同窓会特別委員・デザインコンサルタント)
資生堂シャンプー TSUBAKI ポスター / YKKap 新聞広告 いろんな窓辺 / SUNTORY 森の動物カレンダー / 坂口安吾短篇集池田 はる香
- Concept:
- 資生堂シャンプー TSUBAKI ポスター「旅先のホテルにもお気に入りのTSUBAKIを持っていく」というストーリーで表現。
非日常感を演出するために、パースの不正確なイラストで不思議な空間を目指しました。
- YKKap新聞広告 いろんな窓辺突出しサイズの広告が、まるで新聞の中に窓があいているように見えるという
アイディアから、さまざまな窓辺を影絵と実像のイラストで表現しました。
- SUNTORY 森の動物カレンダーサントリーが育てる天然水の森に生息する動物たちを葉っぱを使った貼り絵で
表現しました。季節にあわせて、その時期に見られる動物と、その生態を紹介しています。
- 坂口安吾短篇集近代化する建築物と安吾の孤高の精神をイメージしたシルバーをメインカラーにして、情熱や戦争など血のイメージした赤を、背と綴じ糸に使用しました。
- Review:
- 何点か作品が展示されていましたが、どれもみなセンスよくまとめられていてとても好感を持ちました。特にサントリーのカレンダーのイラストレーションが気持ちよかったです。デザイン的に美しく見せるセオリーのようなものを理解しているのだと思います。社会に出てどんな活動をしていくのかとても楽しみです。評者 : 田代 卓(同窓会理事・グラフィックデザイナー/イラストレーター)
昨年に引き続き2回目の桑沢賞本賞の審査にあたらせていただきました。この審査のチームは、審査作品を見ているときに感じたこと、思ったこと、考えさせられたことを自由に遠慮なく口にしよう、議論を尽くそうということを念頭において審査しようということにしています。議論を尽くしてもなお悩んだときは桑澤洋子さんのことばである「デザインは個人の作業ではなく社会の問題である」「外から内に解決する」「既成概念の打破」などに立ち戻り審査するということをやってきました。
小島奈保子さんについては、私自身作品を見て圧倒されました。皆さんも同じでありました。一枚の紙から有機的でダイナミックで立体的な造形を切りだすという表現力に圧倒されました。紙という素材や道具、技術という創造の原点を理解して大切にしなければあのような作品は生まれないことと、まったくデジタル技術を排しながら、作り手の情熱や痕跡を残していることが私たちをとらえたのだと思います。
白根ゆたんぽさんについては、彼の作品を目にしない日はないといっていいほどの活躍をしています。ひと目見てゆたんぽさんの作品と理解ができるほどです。特にコミュニケーションという領域において、伝えるべき情報を的確に伝えるという理解力が極めて高いといえます。複雑でわかりにくい、ともすると無味乾燥になりがちなインフォメーショングラフィックにおいて独自の手法で料理されているところに注目しました。難しいことをやさしく伝える、そしてやさしく伝えることを楽しく伝える。その楽しさの中に深味を与えることに頼りになるクリエーターだと思います。
この世の中、デジタル化、国際化が進み、放っておくと人間性の欠如、排除、閉塞感が漂うことが、現代において社会やクリエーターを囲む問題であります。今回受賞したお二人は、自身のクリエーションで自己表現だけでなくこれらの問題を解決しながら活躍すると期待しております。