第26回 桑沢賞表彰式がにぎやかに開催されました
今回で26回目を迎えた桑沢賞の表彰式&パーティーが、2018年5月19日(土)に東京・原宿クエストホールにおいて開催されました。約380名の参加者をかぞえ、今回から新たにイラストレーター&ソラミミストの安齋肇さんの司会によりにぎやかに表彰式が行われました。
これまで桑沢賞本賞の対象者は50歳以下という制限を設けていましたが、数年前より審査員と評議会を立ち上げ協議を重ね、「50歳でもまだ若手」というデザインの分野にも、光を当て後押しをしようという結論に達し、昨年の25回を最後に50歳制限を撤廃することになりました。そのため、今回ランドスケープデザイナーの団塚栄喜さんというすばらしい受賞者を選ぶことができました。
そして、司会者に稲川淳二さんに変わり安齋肇さんを迎えることとなりました。新しい桑沢賞にこれからもご協力をお願いいたします。
桑沢賞2018 特製賞状
- Design:
- 吉泉聡(2017年桑沢賞受賞)
- Comment:
- それぞれ多様な活動を行う受賞者へ贈る賞状として、
同じ色形の賞状ではなく、それぞれの受賞を讃える言葉だけで賞状をデザインしたい。
言葉をそのまま押し出し、立体だが一般的な賞状と同じプロポーションに仕上げる。
4名の受賞者を讃えるそれぞれ異なる言葉が、異なるストライプを生み出す。
それは、その人にしかない、その人を讃える言葉だけで出来上がった賞状のデザイン。
一般的な賞状のようでありながら、文字を横から読む必要がある。
その姿は、日常を異なる視点から捉えるクリエーションの基本姿勢を感じさせる賞状でもある。
桑沢賞2018 特製Tシャツ
- Design:
- 高橋俊之氏(2017年桑沢賞受賞)
- Comment:
- 今回、招待状とTシャツのデザインをさせて頂きました。
昨年、桑沢賞を受賞しブロンズ像を手にして、すごく嬉しかったです。
なのでその喜びや桑沢賞の威厳を表現できないかと、この素晴らしい「少女像」をモチーフにデザインをしました。
学生の皆さんが、いつかブロンズ像を手にすることが目標のひとつとなりますように。
あぁ、楽しかった。
せんのあかんぼう松永 将 - 3A 浅葉克己ゼミ
- Concept:
- この作品は、固定のスタイルやリズムに留まらない線の表現を模索するものです。私は線を引くための物では無い様々な物を集め、これらを墨に浸け線を引き、サンプリングしました。次にモチーフを描きます。赤ちゃんを描きました。何かを始めるという点でまっさらな無垢な状態であること、そして固有の人物でない分イメージに左右されず、純粋に線を注視できることなどで、このモチーフに決めました。これを写真を見ながら、普段ドローイングをするのと同じリズムで平常を保って描くのですが、しかし全く描けません。出来上がったものは歪んでいたり、おぼつかないものになります。ここに自分の意図とは異なる像が生まれます。これは自分の中には無い表現で、自分の外にある表現を意図的に表出させています。この作品群はオリジナリティがあるものではありません。自分の外の表現を呼び込む模索であり、線との格闘、もしくは戯れです。
- Review:
- タイポグラフィ寄りの作品が多い浅葉克己ゼミの中で、[せんのあかんぼう]というタイトルの作品は一際異彩を放っていました。イラストレーションでもなく、絵画でもない墨の表現は紙の上に乗った黒い痕跡、松永さんの魂と理性が一致した後の残像なのかなあと思いながら暫く見入ってしまいました。1000枚という圧倒的な量に加え、プレゼンテーションも上手く感じました。
評者:田代卓(同窓会理事・グラフィックデザイナー、イラストレーター)
au clair de la lune董 懿萱 - 3C 伊藤透ゼミ
- Concept:
- 月の満ち欠けで移りゆく、月光の下の世界観を表現した香水瓶。7つの瓶を月齢の数でナンバリングし、7つの満ち欠けと香りを個々に刻み込んだ。シンプルな美しさのために、香水瓶だけでなく、パッケージとディスプレイにも色の選別と素材感、そして光の織りなす屈折と立体感を追求した。
月は古くから女性のイメージがあり、美しく上品で、柔らかい光で月下のものを包み込む。そんな薫りを香りとして籠めた香水は、エレガンスなレディーに似合わしい。
- Review:
- 月の美しさの魅力は、時代を超え、国を超え、年齢をも超えるエターナルなものである。そのイメージを香りの世界にうまく投影した作品である。月の満ち欠け7つを瓶型と質感のある紙の箱にシンプルに表現しているが、見る人をどこか宇宙(そら)高く、時空を超えた世界に連れて行ってくれる。ポスターがそれをさらに導いてくれる。
評者 : 赤羽なつみ(同窓会理事・デザイナー)
A piece of paper ~和に恋した洋の風~永岡 真依 ・ 3D 坂本敏昭ゼミ
- Concept:
- 今回、日本の伝統的折り紙と西洋のモダンなデザインを融合させた照明を制作した。
多角的な直線で折られた作品をいかに柔らかいイメージにするのかを追求したところ、1枚の紙で折り上げるところに行きついた。
これにより、直線的な折り重なりがより温かく心和む照明へと変化した。
和にも洋にも融合できる。そして何より人の心に響く作品を目指した。
- Review:
- この作品は既存の三種の折を使用した作品ではあるが、1600mm平方の「紙」という素材にボールペンと手で格闘した事により、既存の折構造の間をシームレスに「繫ぐ折り」を試行錯誤の末に導き出している。「折りの研究を今後も続けたい」という意気込みも評価の対象となった。新たな折構造の発見は計算幾何学の学者に任せるが、デザイナーとして新たな製品を産み出す可能性を大いに秘めている。
評者 : 八十島 博明(同窓会理事・グラフィックデザイナー)
画家から始まるアートポート構想瀧波 悠 - 3E Keiko+Manabuゼミ
- Concept:
- 神奈川県横須賀市の長浦港を舞台としたアートポート構想。
戦時中、この港に軍の物資や兵器を保管するために多くの倉庫が作られた。
だが、今ではその大半が人の手が入ることなく荒廃の一途をたどっている。
負の遺産となった倉庫群を現代と共存する遺産として変えていくことはできないだろうか。そのきっかけとして、昔からこの地にアトリエを構えている父を取り上げた。倉庫群に彼のアトリエ兼ギャラリーを設計することが今回の主な試みだ。この港でギャラリーを展開しているギャラリスト先導の元、アート活動を志す人々を巻き込み、新たな価値を持つアートポートとなっていく。
- Review:
- 専門性の高い入口が、人を惹きつけ、集っていき他分野も活性し開いていく、再生過程を楽しく想像できました。新旧がバランス良くちりばめられた空間は、中に入れるしかけで、視点が絞られ漂う空気や流れる時間を、印象深く体感できます。とても美しいです。評者 : 新目惠(同窓会委員・イラストレーター)
Optical田中 美紗 - 3F 藤田恭一ゼミ
- Concept:
- 錯覚。
服の形はベーシックに、生地を加工したり地の目の変化をつけ、曲線で統一した切り替え線で自分が思う錯覚を表現しました。
- Review:
- 60年代のOPP―ARTのようなモノクロームの幾何学パターン、70年代に流行った有機的な曲線のデニムパッチワーク、全体的なフォルムは大胆でモダンな80年代を彷彿とさせます。各時代の要素を取り込んでリミックスして現代に復活させ、全体的には色を抑えてバランスよくすっきりと、シャープでモダンな印象になっていました。60、70、80年代の要素を取り込ん「DECADE MIX」(時代感ミックス)、作品の完成度もあってとても面白く感じました。評者 : 横森美奈子(同窓会理事・ファッションデザイナー)
沢田マンション古波倉 成美 - 3F 藤田恭一ゼミ
- Concept:
- 沢田マンションは高知県高知市に建設された、鉄筋コンクリート建築を専門職として手がけたことのない夫婦二人が独学、独力で造り上げた集合住宅です。増築に増築を重ね、設計図は建築者の頭の中という、自由でひとつたりとも同じ間取りの部屋がなく、 建物内は外見同様、迷路のような作りになっています。今回、私は制作にあたり実際に高知県の沢田マンションを訪れた際、その不安定な作りと混沌とした様に圧倒されました。沢田マンション=アヴァンギャルドというものをファッションを通して表現したい思いから制作しましした。
- Review:
- 「日本の九龍城」「軍艦島マンション」などの異名を取る"沢田マンション"をテーマとしたこの作品は、着眼点のオリジナリティに加え、服としてのディティールの作り込みが優れていると感じた。ワークウェア、ミリタリーウェア等の要素や独特のプリント柄が現代的なセンスで調理され、全体としては実験的でウィットに富んだ、形式にとらわれない自由さがある。実際に現地に足を運び、得た経験を形にしたという点も興味深い。評者 : 三上司(同窓会委員・ファッションデザイナー)
有島武郎『生れ出づる悩み』 / 全国浴場組合武内 優里子 - 2部 VD2B
- Concept:
- 有島武郎『生れ出づる悩み』理想と現実に揺れ動く物語は、誰しもが日々、紡いでいる。この本を遠い誰かの記憶でなく、自分の一部の物語として感じてもらいたく、具象表現は控え、幾何学模様を多用した。
画家になりたい漁師が持ち歩く画用紙の束と漁の網糸から着想を得て、皮のスケッチブックと網袋で世界観を表現。
大切な記憶の本として読む人のそばに長く寄り添い、自分の本当の願いを思い起こす一冊になることを願う。
- 全国浴場組合銭湯は、「誰しもがなぜか懐かしいと感じ、癒される芸術的な時空間」。
古来から人々を癒し、自然と築かれた「銭湯の型」は今日も続く日本の大切な文化の一つ。自分のペースで自分と向き合い、ゆったりと洗い流され、心も体も癒される場所。心と体の洗濯場としての構成要素と懐かしさという魅力を俯瞰的にアイソメトリックの手法を用いて伝えた。
- Review:
- 全く毛色の違うモチーフと媒体に対し、それぞれの世界観を適切に表現しており、その世界観が見る者にもきちんと伝わるクオリティだと思いました。本の仕様が主人公そのものとも言える手の込んだ装幀は、読者を物語の中へどっぷり浸らせてくれそうです。評者 : 日下部昌子(同窓会委員・グラフィックデザイナー)
桑沢賞:審査総評
Sanada Takehiko
眞田 岳彦氏
衣服造形家
先ほど八十島会長から報告のあったとおり桑沢賞設立から四半世紀・25年が過ぎ、さらに時代に即した賞のあり方を検討する評議会が立ち上げられ、私も評議員の一人として1年以上かけて、いくつかの内容を検討しました。その一つに、本賞候補者は、これまで50歳以下という年齢制限がありましたが、その制限を外す事が決められました。
今年度の審査会に臨むにあたり私は、桑沢賞25年の昨年と、いうなれば新生桑沢賞とも言える今年の審査への視点を捉え直す必要があると考え、この賞の成り立ちや、私たち卒業生の根源とも言える桑沢デザイン研究所創設時の理念を再度、振り返りました。
今日、ここに持ってきた「桑沢洋子の服飾デザイン」という本は、桑澤先生が最晩年に書いたものです。33年前、私が桑沢の学生時に揃えたもので、仕事に悩んだ時などにバイブルのように取り出す本の中の一冊ですが、桑沢賞の理念とも言える桑澤洋子先生の言葉が書かれているので、ここで紹介させていただきます。
「近年の社会的変化は激しく早い。これまで持たれていた秩序や価値観、世界は大きく変わって来ている。物は大量に生産され、膨大な情報は絶え間なく流れ国際化は急速に進んでいる。〈中略〉そして大量のファッション情報はともすれば人目を引く華やかなもののみ焦点が当てられ、生活に密着した服飾情報は価値の低いものとして情報の蔭に追いやられがちである。このあたりで私たちはもう一度落ち着いて日本人のための、日本の風土・生活に適した服飾とはどうあるべきか、何をどのように着るべきかを根底から見直すべきではないだろうか。〈中略〉私は長い間デザイン活動と教育を通して服飾に対する日本人の持っている良い感覚を引き出し自信を持ってもらうために努力してきた。そうした中でいつも言っていることは、知識や概念で判断するのではなく直に自分の眼と感覚で対象をとらえる自信を持ってほしいということである。」
これだ、と思いました。
この色あせない桑澤先生の考え、私たちに伝えられた理念、この原点に立ち返り、この賞のあり方を捉え直す事が必要だと思いました。
今回は、30歳代から50歳代までの多くの候補者がいらっしゃいました。どの人も独自性ある意識高い活動をされています。特に団塚さんは、桑沢デザイン研究所卒業後、ファインアーティストとして自身の根源を見つめる作品制作から活動を始め、その後、立体作品を介した空間制作へと広がり、さらにランドスケープという地域コミュニティをつくる大規模な活動へと展開されています。その活動を通した制作姿勢には、日本の風土・生活に根付いた空間のあり方や、植物や建造物を介した人と集う場の新しい捉え方を強く感じました。
桑澤洋子先生の教えから枝や葉を伸ばし、豊かに生きるための物や事をつくり出してきた団塚さんの考え方や姿勢は、審査員一同、桑沢賞にふさわしい人材と活動であると結論に達し、第26回桑沢賞受賞者に決定いたしました。