KDS dosokai

Kuwasawa Award 2022

桑沢賞2022

八十島会長あいさつ

桑沢賞は、桑沢デザイン研究所の創立者である桑澤洋子先生の業績を記念して、1992年に同窓会が制定した賞です。
毎年5月に、桑沢賞本賞をはじめ各賞が、さまざまな分野で活躍する卒業生や桑沢の教育に携わった方に贈られます。

本来であれば、2022年は桑沢賞にとって第30回という節目を迎える年でしたが、いまだに新型コロナウイルス感染症拡大の状況が読めないため、桑沢賞本賞は2023年に繰延べし、桑沢新人賞の選定・表彰のみを執り行う事といたしました。

2022年に卒業された方々は入学時からオンライン授業を余儀なくされた方もいました。
我々同窓生としても「デザイン教育がオンラインで」行われることに一抹の不安を抱えておりましたが、先の卒業生作品展の素晴らしい出来映えを確認し、その不安は払拭されました。
その中から同窓会理事・委員により選考した8名の受賞者をご紹介いたします。

桑沢賞2022 記念Tシャツ

桑沢賞2022
Design:
阿部真由美さん(2021年桑沢賞受賞)
Comment:
最初のバラは花びらが5枚でした。大切な雌しべを守るために雄しべが花びらに形を変えました。
花びらは5枚、10枚と5の倍数で増え、現在のようなバラが生まれました。
自分の感性を守りながら大きな花を咲かせてください。新人賞受賞おめでとうございます。

桑沢新人賞

袁浩 En Kou

袁浩

白根ゆたんぽゼミ

ゴールデン ボーンズ ー105匹犬と猫3匹の勇者たちの水滸大冒険

  • ゴールデン ボーンズ 1/4
  • ゴールデン ボーンズ 2/4
  • ゴールデン ボーンズ 3/4
  • ゴールデン ボーンズ 4/4
Concept:
この作品は中国の「水滸伝」という有名な小説に基づいて、味方の登場人物をデザインして、犬猫のキャラクターを描きました。
水滸伝は三国志と同じ、中国四大奇書の一つなのですが、日本では三国志より有名ではなくて、知っている人も少ないので、水滸伝の魅力を宣伝したいと思います。
キャラクター犬猫化の理由の一つは、人間よりも、人間の服を着て、武器を使っている犬猫のほうが面白くないですか? 暴力的よりも可愛いとか、かっこよく見えるでしょう。人間より犬猫のほうが見る人が好きになれます。
また、犬と猫は一番多く人間に飼われたペットとして、動物虐待が世界中で起こっています。動物のイラストを描いてみんなに注目してもらいたいと思います。
Review:
凄まじい熱量に引き込まれた。水滸伝の登場人物を犬に置き換えて紹介しているが、「なぜ犬か」という問いはもはや無粋である。三国志に比べると知られていない水滸伝を世に知らしめたい、という無償の愛から生まれたイラストレーション。智謀にあふれ人間味ある呉用はキャバリア、怒鳴り声が雷鳴のようだといわれる秦明はシェパードと、キャラに合わせた犬種に見応えがある。これは物語を紐解きたくなるだろう。 評者:森井ユカ(キャラクターデザイナー)
丹下佳晴 Tange Yoshiharu

丹下佳晴

浅葉克己ゼミ

THE BUBBLE OF POINTILLISM 点描の泡

  • THE BUBBLE OF POINTILLISM 点描の泡 1/4
  • THE BUBBLE OF POINTILLISM 点描の泡 2/4
  • THE BUBBLE OF POINTILLISM 点描の泡 3/4
  • THE BUBBLE OF POINTILLISM 点描の泡 4/4
Concept:
偶然できた泡のようなグラフィックをフォーマットに、ドットの色のみを変えていき、具象・抽象の様々な図像を映し出す。
偶然生まれ、姿形を変えながら絶望へ人々を導く「コロナ」という存在から「発生の偶然性」と「広がり方」を抽出し模倣することで、人々の受けた悲しみを糧にしながら希望へと昇華する。
Review:
正方形による点描、円形の中で完結、というルールをもとに沢山のアイディアを出し、タイポグラフィやポスター、動画にまで展開していくという丹下さんの作品は、与えられた制約・課題の中でどれだけクリエイティブなものを生み出せるかという、デザインの仕事そのものです。細部と全体を見ながら実験的に作り上げていく力と絶妙な色使いに、今後の活動に向けての可能性を感じました。 評者 : 日下部昌子(グラフィックデザイナー)
山元美柚 Yamamoto Miyu

山元美柚

伊藤透ゼミ

天然氷酒

  • 天然氷酒 1/4
  • 天然氷酒 2/4
  • 天然氷酒 3/4
  • 天然氷酒 4/4
Concept:
埼玉県長瀞町でつくられている天然氷をモチーフとした日本酒ボトル。中身は長瀞の地酒を想定。天然氷特有の透明感をボトル全体で表現した。実際の氷づくりの、氷バサミで氷を取り出す動作と、氷バサミの飾りを持ってボトルの栓を抜く動作を重ねて、氷を氷バサミで挟んだキャップデザインにした。テクスチャの違いで、氷が溶けかけた感じと、凍って表面に霜がついている様子を表現した。
Review:
品質・価値・おいしさについて大変よく考えられた作品です。人を惹きつける最小限の要素の選び方と、その要素を最大限に活かす表現方法を高く評価しました。さらに、作品の仕上がりの丁寧さにデザインに対する熱意や意欲を感じました。今後の活躍を楽しみにしています。 評者 : 宮澤太地(グラフィックデザイナー)
LIU TI SHENG LIU TI SHENG

リュウ テキ ショウ

浅葉克己ゼミ

ボポ魔フォ 妖精の国の言葉を学ぼう

  • ボポ魔フォ 妖精の国の言葉を学ぼう 1/4
  • ボポ魔フォ 妖精の国の言葉を学ぼう 2/4
  • ボポ魔フォ 妖精の国の言葉を学ぼう 3/4
  • ボポ魔フォ 妖精の国の言葉を学ぼう 4/4
Concept:
台湾の表音文字「注音(ボポモフォ)」と日本の平仮名、漢字でフォントを作る。
国際的な立場が不安定な台湾は、ある時期インターネット上で「妖精の国」と呼ばれていた。由来は、ある国では台湾のボポモフォが知られておらず特殊文字と思われ、あるゲームで妖精の言葉に設定されている。一方で、台湾は存在してるけど軽率に言えず、国か国ではないか検討したら炎上する可能性があるので、妖精の国と言い換えたためである。
「もしかしたら、私がいつも使っている文字はまさかエルフ語か?」そして、その言語を学ぶことは魔法みたいかもしれないと思った。最初、この国の言語の文字は呪文のようで、全然読めないけど、勉強したら、言語という魔法スキルをもらえる。魔法の世界観を立ち上げて、一緒にエルフ語を学ぼうという概念で、フォントを作った。
Review:
視覚伝達の主たる手段である文字(フォント)の多様化が進む現代において、今回リュウテキショウさんの卒業制作「ボポ魔フォ」に注目しました。台湾は街中いたるところで中国語(繁体字)に触れられる機会が多く、初等教育からボポモフォを学び、桑沢で日本の平仮名と漢字を融合させ、一文字ごと丁寧にフィニッシュしていく高い完成度はもちろん、バリエーションカードも品格があり、「母国の文化を取り入れ、その中で自分にできることは何か」を問いただしたリュウさんの力作を推薦します。今後、リュウさんの創る新しい文字に、さまざまな分野で出会えることを期待します。 評者 : 小川航司(グラフィックデザイナー/日本タイポグラフィ協会理事)
木村汐里 Kimura Shiori

木村汐里

森井ユカゼミ

星観察日記

  • 星観察日記 1/4
  • 星観察日記 2/4
  • 星観察日記 3/4
  • 星観察日記 4/4
Concept:
空に浮かぶ小さな星は、人間である。カプセル人間が宇宙でばら撒かれ、辿り着いた地球で私達人類の生活は始まったのだ…。
漫画を読む人は作品に自分自身を入り込ませたり、妄想を広げた経験があるでしょう。私はより現実的に漫画の世界の住人になるために、この作品を制作しました。本作は、人間が誕生してから滅亡するまでを毎日短いページで描いた長・長編作品です。日本人が誕生し現在に至るまで約900万ページ描かれ、最新刊の20000巻目を私達は生きています。あなたの何気ない一日も描かれているかもしれません。
Review:
気が遠くなるほどの時間の経過、圧倒されるほどの多くの魅力的なキャラクターが登場するという壮大なSTORYを作り、それを漫画という表現方法で限られたスペースにまとめあげるという、漫画だからこそ出来る手法をとりいれた着眼点のよさとセンスを感じました。線画で描かれた登場人物、コマ割りなど、白黒のバランスが絶妙で、STORYの面白さと美しい構成で完成度が高い作品でした。 評者 : 赤羽なつみ(パッケージ/グラフィックデザイナー)
葉之皓 Yeh Chihhao

葉之皓

KEIKO+MANABUゼミ

家の記憶を受け継ぐ家 MEMORY FROM HOME TO HOME

  • 家の記憶を受け継ぐ家 MEMORY FROM HOME TO HOME 1/4
  • 家の記憶を受け継ぐ家 MEMORY FROM HOME TO HOME 2/4
  • 家の記憶を受け継ぐ家 MEMORY FROM HOME TO HOME 3/4
  • 家の記憶を受け継ぐ家 MEMORY FROM HOME TO HOME 4/4
Concept:
家という空間は人にとってどんな存在なんだろう?
人によってそれぞれだけど、私にとっては家族との思い出がいっぱい詰まるところは家。
家族が住んでから空っぽな家が単なる住宅空間から家になる。ただ住める空間とは違う、感情的に家は帰る場所、休める場所、自分のもとと言える場所。
しかし、一生住み続ける家がない、人はいつか必ず元の家から出て、新しい家族を作って、自分の家を持つようになる。その時,元の家族との思い出、家に対する感情が断ち切られて、遠い記憶になる。また新しい家で新しい家族と新しい思い出を作る。
私にとって今の家族との思い出は一生のもの、記憶に残るもの、将来自分の家庭を持っていても、この家族に対する感情、家に対する感情を未来の生活に跡を残したい。
よって、今回40歳の私をクライアントにして、未来の自分に家の記憶を受け継ぐ家を提案する。
今まで住んでいた家と父が住んだ家を3つピックアップして、家族の生活と住宅空間の関係性を平面図と写真から研究し、実際住んだ感想を加え,未来の自分の家庭生活を想像し、家に対する感情や記憶を未来の自宅に繋ぐ。
Review:
1954年から2032年までの78年に渡る暮らしを、4軒の家がリレーする。始まりは両親の家、そして4軒目は将来の自分をクライアントと想定した。時代や場所、好みに合わせつつも、風が通り水が身近にある設計が受け継がれ、ここで暮らす人たちのことを全く知らないのに身近に感じてしまう、まるで物語を読むような作品。模型のクオリティも素晴らしく、いつまでも眺めていたくなる。 評者 : 森井ユカ(立体造形家)
山口裕大 Yamaguchi Yuudai

山口裕大

藤田恭一ゼミ

Geometry On Body

  • Geometry On Body 1/4
  • Geometry On Body 2/4
  • Geometry On Body 3/4
  • Geometry On Body 4/4
Concept:
一枚の生地を折る、摘まむを繰り返して制作した立体的なテキスタイルに、平面的な糸によるテキスタイルを合わせて生まれた幾何学的なテキスタイルを、人が着ることで生まれる新たな美しさを表現した。
生地と糸の色はテキスタイルをはっきりさせるため原色同士を対比させ、素材は形を崩しにくく、統一感を表現するため全て同じモノを使用し表現した。
Review:
布地を使い、思い通りの立体物を作り上げること自体が容易ではない中、プリーツやステッチワークを駆使して造形・バリエーション展開をした意欲的な作品だと感じました。
完成するまでに、幾何学と向き合いながら試行錯誤があったことを垣間見ることができます。
デザインは現代的にまとめられており、カラーバランスも、単体で見た時と5体並んだ時とでどちらも映えるように計算されています。 評者 : 三上司(ファッションデザイナー)
樋口魁 Higuchi Kai

樋口魁

夜間VD2B

新聞・木

  • 新聞・木 1/4
  • 新聞・木 2/4
  • 新聞・木 3/4
  • 新聞・木 4/4
Concept:
読んだ人々に木のように強く、逞しく成長してほしいという願いを込め、「木」という新聞を製作した。
内容としては、東日本大震災から10年経った福島・宮城の現在と、日本と韓国の領土問題を取り上げた。震災の記事に関しては、現地で撮影した現状の写真を掲載し、日本と韓国の領土問題については、韓国出身のクラスメイトと話し合いながら、意見の違いを明確にしていった。解決を目指し問題を一元化するのでは無く、問題提起に主眼を置き、生きている場所、職業は違えど、この日本という国で起こる事に関して、木が全て空を目指す様に、私達も同じ方向を向き共に考える契機となればと思う。
Review:
誌面のデザインはもちろんのこと、取材、編集という工程を通して、情報デザインの基本である「見せる・読ませる・伝える」を成し遂げています。
東日本大震災の被災地、福島と宮城のその後についての記事は、現地におもむき一次情報をしっかりレポートしているところに好感が持てます。
竹島・独島問題についての記事も韓国の友人との協働で、日本の主張をハングルで組むなどの工夫も意義のある事に感じます。
レイアウトも空間を活かし情報が整理されており、システマチックで理知的なデザインです。
そして、とても社会的な意義を感じる作品でした。 評者 : 八十島博明(グラフィックデザイナー・日本タイポグラフィ協会理事)