桑沢賞2023 特製賞状
- Design:
- 浅葉克己(2021年桑沢特別賞受賞)
- Comment:
- 日本を象徴する樹は何かと言われれば、その一本には松の樹が入ると思う。500郷里、横浜の金沢文庫に住んでいた頃、500坪の庭の中央には松の樹がドーンと枝を広げていた。一番好きな絵はと聞かれれば、長谷川等伯の「松林図」と答える。この「松」の掛け軸を時々出して見てね。
桑沢賞2023 特製Tシャツ
- Design:
- 日下部 昌子(1995年桑沢新人賞受賞)
- Comment:
- 桑沢の卒業生は、デザイン業界に限らず、様々な分野で活躍されていますが、桑沢で培ったフィルターを通して人々の生活や幸せを考えているとすれば、それもひとつのデザインと言えます。
今回デザインを担当させていただいた桑沢賞のロゴマークは、メダルのような円形の左端がカットされてDESIGNのDとなり、その中で躍動する「KUWASAWA」の文字は、各界で活躍する桑沢の卒業生を表しています。
プラスチッグウ銭 偉松 - 3A 浅葉克己ゼミ
- Concept:
- 古い時代、人々は土や木、石など様々な素材を使って、神や自然への崇拝を表す偶像を作っていた。
では今の時代にそのような人形を作るとしたらどうなるのだろうか。
現代で最も代表的な素材は、プラスチックだと思う。またそれは分解されづらく、何百年も先まで保存することができる。
そこで私は様々なプラスチック製品の特徴を捉え、「プラスチッグウ」という土偶や埴輪のような人形をデザインした。
「プラスチッグウ」には、古代の土偶や埴輪と違って宗教的・呪術的意味が全くない。
それは、21世紀の人々の生活・趣味・欲望を表している。
- Review:
- この作品はユーモアが重層しています。
3Dプリンターで作製された立体像は何??
しかしすぐに、それは古代の土偶や埴輪のパロデイだと気づかされます。
ポスターは掛け軸のようで、落款の如く配置された漢字ひと文字が立体像を解説しています。作品名はプラスチックと土偶の合体―プラスチッグウ。
巧妙で上質なユーモアにグウの音も出ません。
SDGsが謳われる現代を意識させる、センス溢れる作品でした。
評者:赤羽なつみ(同窓会理事・デザイナー)
Laugher宇佐美 寿々音 - 浅葉克己ゼミ
- Concept:
- 人以外が笑うことに着目し、感情の存在について考えた。
楽しいからというだけでなく、ネガティブな場面にも時折顔を見せる「笑う」という行為。
そんな、感情を掌握している行為は笑わないものたちにとって、感情の存在を照らし出す最高のものだと思う。
そこで、笑わないと思われていた動物、植物、物を「Laugher」と名付け、作り出した。
また、それらの設定から笑う剥製のようなイメージで、笑い声と共にからくり人形を作成した。
- Review:
- 作品の世界観から、立体、空間、そして平面の表現に至るまで、総合的なクオリティの高さと、その緻密さ・美しさ・ユーモアに、ただただ感動しました。奇想天外な『ヴォイニッチ手稿』のような、存在しないはずなのに、想像と好奇心を喚起させてくれる、神秘性とエキゾチックさがあり、もしかしたら我々が知らないだけで、生き物たちは色んな「笑い」を持ち合わせているのかも?…と思わせてくれる、不思議な魅力を感じました。
評者:鈴木順平(同窓会委員・プログラムディレクター)
yuragi森 咲夏 - 工藤強勝ゼミ
- Concept:
- 人間は表面上では伝わらず、一度だけでは捉えられない。
やりとりを重ねていくことによってその人の内奥が徐々に顕になり、自分の中にある相手への認識が揺らぎながら変化していく。
様々な輪郭を持ったページをめくっていくごとにその人の深部へと入り込んでいき、潜在している人間性・心・表情が見え隠れしながら他者に伝わっていく様子を、本という紙の重なりの立体物に表現を落とし込んだ。
- Review:
- 同様の事はデジタル表現では容易に出来るであろうが、3辺にリングを付けたギミックにより、紙媒体ならではの触ることの楽しさがある。通常のエディトリアルは1ページから順に捲っていく事になるが、3辺の構造から、ポートレートのバリエーションは指数関数的に増えている。
モノとしての完成度も高く、好きなタレントを対象とした場合には、ファンは手元に置いておきたくなるだろうと想像出来る。
制作過程の楽しさも伝わる見事な実験作品。
評者:八十島博明(同窓会会長・グラフィックデザイナー)
残飯おばけ神尾 なつみ - 森井ユカゼミ
- Concept:
- 普段何気なく残している食べ物は、残飯おばけになってこの世に浮遊している…
昨日つまずいたのは、いたずら好きな残飯おばけのせいかもしれない。
立体にして現物の大きさで表現することで、よりリアルに感じてもらえるように。
彼らを成仏させるために、君も残されがちな食べ物と向き合ってみよう。
- Review:
- ユニークなコンセプトとキャラクターを用いて、ネガティブなことをナチュラルに伝え、気づきを与えるというコミュニケーションの方法が、上手に設計された作品として非常に印象的でした。伝えたい考えをさらに伝わりやすくするため、ロゴ、コピー、アニメーションなどで、細部に亘り工夫されていたことも高く評価いたしました。今後、さらなる作品にお目にかかれることを期待しております。
評者:宮澤太地(同窓会理事・デザイナー)
RECEPTOR三俣 悠 - 藤田恭一ゼミ
- Concept:
- 今回卒展では「暗部を身に纏う」をコンセプトの一つとして、増殖や繁殖をテーマにデザインしました。
一体ごと、それぞれ苔・菌類・海・人工物・細胞をモチーフにビーズ刺繍を施し、ナチュラルなものをそのままナチュラルに表現するのではなく、あえて強烈に鮮やか煌びやかでユニークに表現することで、当たり前ではない非日常的な日常を感じてもらえたらと思います。
- Review:
- この作品は、当たり前だと思っている世界にも、驚きに満ちた美しさがあることを教えてくれます。モチーフが増殖を繰り返し、身体と一体化して新たな生命を創造するかのような迫力と美しさを感じました。
色遣いや細部の作り込みなどの表現力も素晴らしいです。
また、視点に独自性があるため、その世界に引き込まれてしまいました。
見る者に新たな発見を促す作品だと思います。
評者:三上 司 (同窓会委員・デザイナー)
星降る夜大澤楓 - 藤田恭一ゼミ
- Concept:
- 『私は星の仕立て屋さん。人の纏うドレスってどんなもの? そんな憧れを持つ星々のためにドレスを作っている。
今回のお客様は「牡羊座」「うさぎ座」「猟犬座」「獅子座」
ステージで、まるで魔法のように彼女らは憧れのドレスを纏う。』
というストーリーを、トランスフォームを取り入れることで表現しました。
シンプルなアニマルルックから華やかなドレスへの変化。
そんなドラマチックなコントラストを魅せる服を目指しました。
- Review:
- 仮面から帽子へ、あるいは無地から夜空をイメージした柄が生まれるなど、変化する様子がストーリー性を持ち、ファンタジーの空気感が一貫して表現されており、気持ちが良い印象を受けました。
特に動物モチーフの帽子や、オリジナルのテキスタイルなど細部まで丁寧に仕上げてあり、全体としての完成度が高いため、惹きつけられる力のある作品です。
評者:三上 司(同窓会委員・デザイナー)
KOTAN柳田 美咲 - 藤田恭一ゼミ
- Concept:
- 日本の伝統文化に込められた日本人の魂が、まるで可視化されたかのように。
廃れつつあるも、確かにそこに存在し続けている、日本の伝統文化の生命力を身に纏った。
- Review:
- まるで海外のデザイナーが日本文化をリサーチして表現したかのように、和のイメージを客観的に捉え、独自の視点で要素を抽出し、魅力を引き出した作品だと感じました。
特に、神聖なモチーフを大胆に誇張している部分はインパクトがあり、その反面バランスを考えて肌を露出させた引き算のセンスや、立体造形の表現力が秀逸だと思います。
その洞察力と技術を武器に、今後もデザイナーとして活躍して欲しいです。
評者:三上 司(同窓会委員・デザイナー)
blue pottery / 宝石チョコレートブランドZ2水野 沙耶 - 夜間VD2A
- Concept:
- blue pottery
昔からオランダで作られている、デルフト陶器をモチーフにポスターを制作した。デルフトブルーと呼ばれるブルーを基調とした美しい模様と様々なシルエットのものがあるところが魅力であるため、模様を見せるものと形を見せるものとで2点、展開している。さらに、表現方法としては、手作業のみで表現したものと、デジタルのみで表現したものがあり、対象と表現方法の関係性について考えながら制作した。
宝石チョコレートブランドZ2
誰かに、自分に贈りたい。をテーマにした宝石チョコレートのブランドのパッケージを制作した。贈り物から発想を経て、箱はジュエリーの箱をイメージして制作した。また、もう一つのコンセプトとして幼い頃の宝物箱をイメージしており、可愛らしさやあどけなさを表現するため切り絵やペンで描いた線でモチーフを制作した。展開として、リップクリームと香水を制作している。
- Review:
- 『blue pottery』はオランダのデルフト陶器が持つ多面的な魅力を、手作業とデジタル表現という対比を以って鮮やかに表現されているところに惹かれました。また個人的にはアートとして額装した様子も想像しやすく、インテリアとしての機能を持つポスターでもあると感じられます。
『宝石チョコレートブランドZ2』には、幼い頃にキャンディの包み紙が捨てられなかった、誰にでも思い当たるその感覚を想起させるデザインに親しみを覚えました。パッケージごと商品であるということの好例ではないでしょうか。
作者がこれからの商業的製作で、クライアントとどのような「作品」を作り上げていくのかが、とても楽しみです。
評者:森井ユカ(同窓会委員・デザイナー)
講評
Shimokawa, Kazuya
下川 一哉
デザインプロデューサー、ジャーナリスト
総評
Sanada, Takehiko
眞田岳彦
博士(美術)、女子美術大学教授。専門は衣服造形
桑沢賞の審査会は、毎回、審査員の熱い議論で進行していく。議論は、何が桑沢賞にふさわしいか? 桑沢賞とは何か? という原点に立ち戻るケースが多い。今回も同様だった。我々審査員が立ち戻るのは、本校の創設者である桑澤洋子が残した「デザインは個の問題ではなく、衆の問題であり、社会の問題である」という言葉である。この言葉に本校の存在意義が集約されており、桑沢賞の審査基準もここに極まる。桑沢賞を通して、社会にこうしたデザインの使命を伝えることも、本賞の役割なのである。