桑沢新人賞
Tamaki Yu
玉城結羽
浅葉克己+GOO CHOKI PARゼミコダマムシ展
- Concept:
- 文字は、暖かさにも、凶器のような冷たさにも変貌します。その二面性に着目し、文字の解脱をテーマとした作品を制作しました。
ひらがなから創造した虫を化石として表現し、生物進化の歴史図である系統樹を用いて体系化することで、現実に存在したかのようなリアルさを追求しています。
人の思惑や意志、感情に左右されることなく、あらゆる環境に適応した文字は、コダマムシとして我々の前に現れます。
そこには地獄も極楽も存在せず、ただ文字があるのみです。 - Review:
- 作品を見始めた段階で「これは何だろう?」と思わせるのも作者の狙いだったのでしょうか。
描かれた虫たち、虫を模(かたど)った五十音の文字、化石と、どこを取ってもよく考えられており、虫の描写力のみならず標本ラベルの構成や文字組みも秀逸です。
あたかも実在しているかのような架空の虫の名前も含め、細かい部分までこだわり抜き、楽しみながら制作された様子がうかがえました。
評者:日下部昌子(同窓会理事・株式会社 TSDO アートディレクター)
Masumoto Risa
増本里彩
飯田都ゼミphoto music
- Concept:
- 写真を編集する時に間違えて縮めてできた凝縮された形が面白いと感じ、流れを感じる点が楽譜に似ていると言う考えから「写真から音楽が生まれるのではないか」と思い、オルゴールの楽譜を制作しました。
写真を一度、色面分割をしてから線譜と重ねることで法則性を持たせ、色の境目と線譜が交わる部分の音を選び音楽を作っていきました。
偶然できた物から生まれる音は、不安定ながらも面白い音色を奏でてくれます。 - Review:
- ある一定の法則でつくられたこの作品は、必然的に自然・過去の蓄積から生まれた美しいバランスとのコラボレーションへと昇華されていると感じます。
自然・工業的な写真によって音の奏で方は変わり、歪みや劣化でも変化します。
人の感覚で作ればおそらくバランスをとるところを自分の法則をしっかりと持ち、破綻(はたん)する面白さまで振れ幅を大きく展開しています。
デザインの根本を感じられる実験的で魅力的な作品でした。 評者 : 渡辺和音(同窓会委員・株式会社 There There 代表取締役・アートディレクター)
Kao
かお
森井ユカゼミデザイナーズクローン
- Concept:
- 自分と価値観の合う人はそういないですよね?そんな場合には自分をもう一人作ればいいのでは。デザイナーズクローンではゲノム編集で理想的な自分を作ります。人間のクローン作成やゲノム編集は規制されていますが、生命の操作はどこまで許されるのか。クローン技術やゲノム編集に限らず、画期的な技術をどう使うべきなのか。命を商業化するという非倫理的なテーマで表現しました。
- Review:
- 自分の理解者は自分しかいないという結論から生み出された、自分そっくりのクローン。
誘目性、特殊性、意外性、個性…一見リアルなフィギュアで惹きつけておいて、そこに突拍子もないコンテキストな要素。その対照がとにかく見るものを釘付けにします。
「やられた!」感が半端ない。そして愉快です。 評者 : もりいくすお(同窓会副会長・イラストレーター)
Miki Anju
三木杏珠
羽金知美ゼミ浮動する態
- Concept:
- この世界に存在する、私を含むすべてのものたちは、一見形が定まっているように見えているが、毎瞬間、変化の途中にいて、不安定な姿をしている。
生まれ落ちて、殻を破り、毛が生え、手足が伸び、増えて、時には崩れて、色褪せて、再生し、新たな機能を持ち、脱皮を繰り返し、やがてはいなくなったり消えていく。我々は、毎分毎秒常に、 次の瞬間に向かい続けている。その姿が定まる時は、決してないのだ。
- Review:
- この作品の前を横切った時、何かの力でぐいと引き戻されました。何故だろうと一点一点の写真を探るように見ていくと、どの写真も見る者を惹きつける詩的な空気感が漂っていました。組写真の意味合いと効果を改めて感じさせられました。
写真の大きさ、配列、余白の取り方など、直感的ともいえる構成力がずば抜けて優れていて、それぞれが相乗効果を生んでいます。明確に意図を伝える、クオリティの高い作品です。 評者 : 赤羽なつみ(同窓会理事・デザイナー)
Mise Ryoga
三瀬凌雅
大久保裕文ゼミ
Muriel Brunet
ブルネー・ミュリエル
藤森泰司+篠崎隆ゼミVoile
- Concept:
- この作品は風が帆を満たして形を与えるように、光で満たされるオブジェを目指し、フランス語で帆を意味するVOILEと名づけた。照明器具が光に形を与えるのではなく、光がランプシェードを満たす事で照明器具に形を与えるというコンセプトの探究である。VOILEは一見すると平らなものだが、紐を引っ張るとランプシェードが光で膨らみ、照明が点く。照明器具は三つの大きさに開くことによって光の強さをマニュアル的に調整する事ができる。
- Review:
- 光には形が無い、シェードの役割は光を形として表現する。
この作品はオン・オフでの形の変化とそのスイッチとの連動がしっかりと計算され作られています。
オフの時は平面、オンでのヒカリとシェードの造形美が際立ちます。タイトルの「帆」を表すVoileは、スイッチの操作でシェードが風をはらんだ帆の様に形を変え、素材のレイヤーを通して柔らかい光のオブジェが現れます。
製作過程のvideoを通じてもその緻密さとセンスが窺えます。 評者 : 野口英明 (同窓会理事・プロダクトデザイナー)
Sako Shiori
佐古汐里
比護結子ゼミ下北沢Inspire
- Concept:
- 下北沢は現在「補助54号線」という道路を通すための更地が増えている。時が経つにつれ、その土地は人々の記憶から忘れられるだろう。計画予定地には、人々にとって大切な「物語」が詰まっている。残された時間を「シモキタらしく」過ごしていくために、私は、一気に更地にせず、10年かけて少しずつ建物を壊していく新しい解体方法「カイタイ」を提案する。この「カイタイ」で生まれた自由な空間で、また新しい「物語」が日々描かれていくのだ。
- Review:
- 繊細な人間の心情をほとんど無視して進む大都市のスクラップ&ビルド。
実際、デザインの現場はその効率重視・経済性追求の手助けをするケースが多いものです。
そのような社会の現状に対して明確に反対表明しつつ、デザインの主眼を完成された場所や建築とせずに、時間の流れ方やプロセスとしているところが良いと思います。
さらにそこで起こっていくさまざまな出来事自体を緻密に物語化したことが、この作品のオリジナリティをさらに高めています。 評者 : 宮畑周平(同窓会委員・編集者・プロデューサー)
Araki Hiroto
荒木裕登
藤田恭一ゼミもう大丈夫
- Concept:
- 今回製作した洋服のテーマとしては、「もう大丈夫」というのがテーマになっています。
このテーマを1つのストーリーとして自分は置き換えていて、1つ1つの主役にはあまりならない、いわゆる全体的にみて脇役的な立場のアイテムたちが服になろうとしたら、また、服として、別の形で何か生まれ変わろうとしてたらというストーリーを通してもう自分たちがいれば安心だよと心配ないよと言い聞かせてるというのが今回の制作のコンセプトです。 - Review:
- 「もう大丈夫」という言葉とともに、ソックス、ボクサーパンツ、シャツ、バッグなどのアイテムにまるで感情があるかのようなエモーショナルな表現と、アップサイクルの考え方がうまく融合している作品だと感じました。
賢さの本質は想像力にあると思います。人と同じように、モノにも個性や役割があり、個としては脇役的存在でも、集合したときに、役割を超えたところで全体として立ち上がってくるエネルギーや美しさがあるのだなと再認識させられました。 評者 : 三上司(同窓会委員・FD分野非常勤講師・デザイナー)
ZHOU ZIHAO
周子豪
藤田恭一ゼミ幻覚
- Concept:
- 一般的な可愛いまたはセクシーな女性スタイルとは異なり、私にとって、クールで中性的なスタイルが常に最優先です。
そのため、私のデザインプロセスは通常のものとは異なります。外観を先にデザインしてから布地を探すのではなく、デザインの表現方法から始め、4つの異なる布地をゼロからデザインし、それらを服に仕立てます。
印刷、染色、スプレー、貼り付けの四つの異なる表現方法を通じて、色のグラデーションとぼかし効果をテーマに、異なるスタイルの4種類の服をデザインしました。デザインは、「幻覚」をテーマに展開され、独特の視覚的な感覚や感情的な体験を表現することを目的としています。 - Review:
- ファッションというのは、理屈ではなく「カッコいい!」という印象を与えるのも大きな要素です。 周子豪さんの作品は、出てきた瞬間にそれを感じさせました。ベーシックなデザインをカラーペイントで新鮮に見せたり、一見奇抜に思えるデザインも、ディテールの面白い組み合わせ方だったりして、現実的に応用出来る可能性を感じ、ファッションの持つインパクトと現実的なバランス感覚がとても良いと思いました。 評者 : 横森美奈子(同窓会理事・ファッションデザイナー)
Lee Kyunghwa
李慶花
夜間VDドグラ・マグラ
- Concept:
- 難解が故に三大奇書の一つとも称されるドグラ・マグラを、少しでもわかりやすく、物語の世界をより楽しめるようにした。本文の前半と後半の間に収まる数々の書物などは、物語中に出てくるそれらの描写を元に制作したもので、没入感をより得られると同時にパート毎に頭の切り替えが可能となるため混乱を避けられる効果もある。また、ページ毎に異なる表情を見せる本文は物語の展開に合わせたテンションと奇怪さを意識している。
- Review:
- この作品を手に取り「エディトリアルデザインワークが本当に好きなのだな」と感じました。
実験的ゆえに非現実的なデザインではありますが、基本的な組版はしっかりと習得しています。
単に情報を受け手に提示する事のみならず、モノとしての書物というメディアのあらゆる可能性を貪欲に探る行為とその密度に圧倒されました。 評者 : 八十島博明(同窓会会長・日本タイポグラフィ協会副理事・グラフィックデザイナー)